入浴の効果と介助の注意点
人間は入浴をすることによって
- 新陳代謝が促され、血行がよくなる
- 皮膚の清潔が保てる
- 疲労が軽減されて、リラックスできる
- 体調が整いやすくなり、食欲が増進が期待できる
などの好循環を身体に与えることができます。
それは若い方だけでなく、介助が必要な高齢者の場合でも変わりません。
このページでは、
- 入浴が身体に与える影響と介助時の注意点
- 身体状態ごとの介助方法
について紹介していきます!
入浴が心理面に与える良い影響
身体を清潔に保つことによって、爽快感を得ることができます。
身だしなみが整い、それが自信となり、他者と関わりたいという意欲を持つことができます。
身体面に与える良い影響
お風呂に入ることで、身体に起こる良いことを3つに分けて紹介しますね。
浮力によるリハビリ
人は水の中にはいると身体が浮きますね。
これは、浮力のはたらきで、身体の重さが軽くなるからです。
お風呂で身体が軽くなることによって、手足が動かしやすくなりリハビリの手助けにもなります。
温熱効果
ぬるめのお湯(38〜40℃)
血圧が下がって気持ちが落ち着き、リラックスができます。
温かいお湯(40〜42℃)
血液が温まり全身に循環し、身体を温めてくれます。
筋肉の疲れや痛みの軽減が期待できます。
熱めのお湯(42℃以上)
血管が収縮して血圧があがり、心臓への負担が大きくなってしまいます。
熱めのお湯は、高齢者や障害のある人には、体への負担が大きので不向きですね。
水圧
湯船に浸かることで、水圧がかかり足にたまった血液を押し上げる効果があります。
血管やリンパ節が刺激され、血液やリンパ液がいっせいに心臓へ戻ってきて、心臓の動きが活発になります。
心臓が悪い人は、胸より深く湯船につからないかシャワーにするなど配慮が必要です。
心臓発作の原因にもなってしまうからです。
入浴介助時の注意点
高齢者の浴室内での死亡件数は、交通事故の件数より多いという統計があります。
ですから入浴介助時には細心の注意を払う必要があるのです。
ここでは、安全に入浴介助を行うための注意点を紹介します。
(1)自宅(施設)の環境を整える
温度調整
まず、浴室、脱衣所の温度差がないよう、ストーブやエアコンを利用し温度調整しましょう。
望ましいのは、家全体(施設ならば、居住スペースのあるフロア全体)、居室と浴室、脱衣所の温度差がないことです。
理由:温度差があることによって、血圧の急な上昇、下降が起こり、心臓発作や貧血の原因となるからです。
すべり止め
浴室内は滑らないように、転倒防止用滑り止めマットなどを敷きましょう。
お風呂のドアの形状
浴室の扉は、引き戸または、折れ戸にするのが望ましいです。
開き戸より、開け閉めがラクにできますし、異常時に介助者が浴室にスムーズに入る事ができるからです。
(2)空腹、満腹時は避ける
空腹時にお風呂に入ってしまうと、急激に血糖値が下がり身体のふらつきの原因となります。
逆に満腹時は、胃や腸に食物を消化吸収するために血液が集まってきます。
この時、お風呂に入ってしまうと、水圧が血液の流れの邪魔をしてしまい消化不良を起こしてしまいます。
胃に食物が入ってリる状態だと、逆流してしまう可能性も高くなるので、要注意です。
(3)お湯の温度
湯船のお湯の温度は38〜41℃が適温とされています。
42℃を超えると、血圧や心拍数の急激な上昇がみられます。
汗もたくさんでるため、血液がドロドロ状態になりやすくなり、脳梗塞の原因ともなってしまします。
脳梗塞とは:心臓でできた血液のかたまりが血管を流れ、脳の血管でつまり細胞が死んでしまい、脳に障害を残す病気です。
(4)入浴時間
着替えの時間も含めて、15分程度がよいでしょう。
お湯につかる時間は5分から10分程度にします。
時間が長いと余計な疲労感を感じさせてしまいますし、あわてるような短い時間では利用者さんの気持ちが落ち着かず、疲れさせてしまいます。
高齢者や障害者は、元気な人と比べると血圧や体温の変動幅が大きいので、ちょっとしたことが体調を崩す原因となり、それが事故につながってしまうこともあるのです。
(5)水分補給を忘れずに!
お風呂に入ると汗が出て、身体から水分がうばわれます。
脱水にならないためにも、入浴前と後の水分補給はしっかりとする必要があります。
(6)緊急時の対応
異常時の適切な対応は、しっかりと決めておきましょう。
医師や看護師への早急に連携をとれる環境を整えておくことが大事です。
介助者ができる対応の例
貧血でめまいを起こしている場合は、浴槽から利用者さんを出して、仰臥位(ぎょうがい)にし安静にする。
※仰臥位:仰向けで横になっている状態
のぼせた場合は、冷たいタオルで顔を冷やし、安静にし、のぼせがさめたら水分補給しましょう。
入浴の基本準備
必要な用具
- タオル
- 石鹸
- シャンプー
- 洗面器
入浴補助用具
- シャワーチェア(入浴用イス)
- バスボード(浴槽の上に置けるボードで、手すりがついている浴槽の出入りで使用する用具)
- 滑り止めマット(浴室内、浴槽内に敷き、滑りを防ぐマット)
お風呂から出てから使う用具
- バスタオル
- ブラシ
- ドライヤー
- 着替え
片まひのある利用者さんの入浴介助方法
まひがある利用者さんでも、自分でできることはできるだけ自分でやってもらうことが大切です。
ここでは、家庭の浴槽での介助方法を紹介しています。
入浴前
- これから、お風呂に入りどんな方法、順番で介助するか、利用者さんに説明
- 体調を確認(体温、血圧測定)顔色のチェック
- トイレの有無を確認し、希望があればトレイ誘導する
脱衣所から浴室へ移動
- 衣類を脱ぐ介助をし、身体にバスタオルをかける
- まひのない方の手で、手すりにつかまってもらう
- 手すりがない場合は、介助者がまひのある方に立ち、身体を支える
- 床が滑らない状態か確認し、移動する
洗う前にすること
- シャワーチェアを温め、ずり落ちないように座ってもらう
- 介助者がかけ湯の温度を先に確認し、利用者さんにも温度を確認してもらう
- 心臓から遠い場所から、かけ湯する
洗う順序
- タオルに石けんをつける
- 顔⇒手先⇒腕⇒上半身⇒足先⇒ふくらはぎ⇒太もも⇒おしり⇒陰部⇒肛門部の順番で洗う
- 陰部の前はできるかぎり、利用者さん自身で洗ってもらい、後ろは介助者が手伝う
- シャワーで石けんを十分に流す
注意点:高齢者は皮膚に水分が少なく、弾力もないため、傷になりやすいので、強くこすらないようにする
浴槽に入る時の注意点
- 浴槽の横にシャワーチェアを設置して、座ってもらう
- まひのない方の手で手すりまたは、浴槽の縁をつかんでもらう
- 介助者は、利用者さんのまひ側の足と上半身をささえて、浴槽に入ってもらう
- 湯船には5〜10分程度浸かる
浴槽から出る時の流れ
- 利用者さんにいったん浴槽の縁またはバスボードに座ってもらう
- おしりをずらしてもらいながら、まひのある足から出てもらう
- 介助者はまひ側のおしりと足をささえる
- シャワーチェアへ座ってもらい、かけ湯をし、軽く水分をふきとる
入浴後に行うこと
- 脱衣所へ移動する
- 全身をバスタオルで拭く
- まひのある方から、衣類を着てもらう。この時も自分でできることへできるかぎり、自分でやってもらう
- ドライヤーで髪を乾かす
- 水分補給する
全介助の利用者さんの入浴介助方法(機械浴)
機械浴とは、ストレッチャーや車いすに乗ったまま入浴ができる設備です。
ここでは、ストレッチャーでの機械浴介助の方法を紹介します。
準備
- 利用者さんにこれからどんな方法でお風呂に入るか説明
- 機械の動作、操作を事前にしっかりと確認しておく
- 排尿と排便の有無を確認し、必要ならばオムツ交換または、トイレ誘導する
- 体調を確認(血圧、体温測定)顔色、気分を観察する
- ストレッチャーへ移動介助する
- 衣類を脱ぐ介助をし、身体にバスタオルをかける
浴室へ移動、浴槽へつかる
- 機械浴用のストレッチャーへ移動介助し、そのまま湯に入れる位置へ移動する
- 介助者が湯の温度を確認し、利用者さんの足もとからかけ湯をして温度を再度確認してもらう
- 利用者さんが安心できるように声かけを十分にする
- ストレッチャーをおろし、湯につかってもらう
- 利用者さんはの状態をしっかりと観察する
洗う
- ストレッチャーを上げ、洗身用のストレッチャーに移動介助する
- タオルに石けんをつける
- 顔⇒手先⇒腕⇒上半身⇒足先⇒ふくらはぎ⇒太もも⇒おしり⇒陰部⇒肛門部の順番で洗う
- 身体を洗っている時も、利用者さんの状態はしっかりと観察する
身体を拭く
- 脱衣所に移動する
- 移動用のストレッチャーにバスタオルを敷き、移動介助する
- 顔⇒頭⇒身体⇒手足の順場に拭く。汚れやすいおしりや肛門部は最後に拭く
- 敷いていたバスタオルを抜き、着衣介助する
入浴後
- 水分補給をする
- 体調の変化を再度確認する
最後にケアマネよりアドバイス
入浴は、健康を保つ手段でもありますが、その利用者さんにとっては、とても疲れる行為なのです。
このことをよーく覚えておいて、安全、安心な入浴介助を行ってくださいね!